佐伯準一郎氏はこんなことを云った。
 慇懃で如才なくて魅力的で、断わりかねるような云い方であった。そこで私は行くことにした。こうして私の見せられたのは、伝説の銀三十枚であった。

11[#「11」は縦中横]

 私の話を聞いてしまうと、妻は一層不安そうにした。
「それでお借りしていらっしゃったのね。まあ本当に仕方のない方!」
 バタバタと階下《した》へ下りて行った。
 箪笥《たんす》を引き出す音がした。
 彼女は書斎へ帰って来た。
「さあ比べてご覧なさい」
 彼女は指環を投げ出した。
「ね、白金《プラチナ》じゃアありませんか」
 指環は白金に相違なかった。それが白金であるがために、彼女はそれを虎の子のように、奥深く秘蔵していたものである。私は二つを比べてみた。銀三十枚と指環とを。
 私は変に寒気立った。二つは全く同じであった。
「おい、こいつア同《おんな》じだ」
「贋金でなくて白金よ」
「この大きさでこの重さ……」
「数にして三十枚よ。さあお金《あし》に意《つも》もったら[#「意《つも》もったら」はママ]? ああ妾にゃア見当がつかない」
「おい、自動車を呼んで来い!」

 一人で行
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