ったが、
「磔柱の郷介と宣《なの》る凄じい強盗のあることは私《わし》も以前《まえ》から聞いては居たが、貴郎《あなた》までを襲おうとは思い設けぬことでござった。打ち捨て置くことは出来ませぬ。早速殿下に申し上げ詮議することに致しましょう」
「いやいや打ち捨てお置きなされ、障《さわ》らぬ神に祟りなし。なまじ騒いだその為に貴郎にもしもお怪我でもあってはお気の毒でございます」
すると利休は哄然と豪傑笑いを響かせたが、
「茶人でこそあれこの利休には一分の隙もございませぬ。なんで賊などに襲われましょう」
それを聞くと魚屋利右衛門はちょっと気不味そうな顔をしたが、
「いや左様ばかりは云われませぬ。天王寺屋宗休、綿屋一閑、みな襲われたではござらぬかな。お大名衆では益田長盛様、石田様さえ襲われたという噂、ことに高津屋勘三郎は、賊の要求を入れなかった為、一家鏖殺[#「鏖殺」は底本では「鑿殺」]の悲運に逢い、あれほどの大家が潰れたはず、尋常な賊ではござりませぬ。まずそっとしてお置きなされ、それに貴郎の所には殿下よりお預かりの名器もあり、さような物でも望まれましたら、それこそ一大事ではござりませぬか」
す
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