またも鉄扇を一揮した。連れて箭が足下へ叩き落とされた。
「お見事」と又も女の声がし、すぐに続いて問いかけた。
「弓箭《きゅうぜん》の根元ご存知でござるか?」
「弓箭の根元は神代にござる」
 言下に若武士はそう答えた。
「根《ね》の国に赴きたまわんとして素盞嗚尊《すさのおのみこと》[#「素盞嗚尊」は底本では「素盞鳴尊」]、まず天照大神《あまてらすおおみかみ》に、お別れ告げんと高天原《たかまがはら》に参る。大神、尊を疑わせられ、千入《ちいり》の靱《うつぼ》を負い、五百入《いおいり》の靱を附け、また臂に伊都之竹鞆《いつのたかとも》を取り佩《は》き、弓の腹を握り、振り立て振り立て立ち出で給うと、古事記に謹記まかりある。これ弓箭の根元でござる」
「さらに問い申す重籐《しげとう》の弓は?」
「誓って将帥の用うべき品」
「うむ、しからば塗籠籐《ぬりごめどう》は?」
「すなわち士卒の使う物」
「蒔絵《まきえ》弓は?」
「儀仗《ぎじょう》に用い」
「白木糸裏は?」
「軍陣に使用す」
「天晴《あっぱ》れ!」と女の清らかな声が、築山の方からまた聞こえてきた。
「お若いに似合わず技巧《わざ》ばかりでなく、学に
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