「でお前さんは何《ど》う思うので?」
「何《ど》う思うとは何を何《ど》う?」
「幽霊が恐くはありませんかね?」
「それより俺は斯《こ》う云い度《た》いのさ。人間の良心というものは、麻痺させようと思えば麻痺出来るとな」
鳥渡《ちょっと》直助には解らなかった。
二人は暫く黙っていた。
此処《ここ》は砂村《すなむら》隠亡堀であった。
一所《ひとつところ》に土橋がかかっていた。その下に枯蘆《かれあし》が茂っていた。また一所に樋《ひ》の口があった。枯れた苔《こけ》が食《く》っ付《つ》いていた。
前方《まえ》はドロンとした堀であった。さあ、確に鰻は居そうだ。
土手の背後《うしろ》に石地蔵があった。鼻が半分欠けていた。慈悲円満にも見えなかった。
土手の向うは田圃であった。
稲村が飛び飛びに立っていた。
それは曇天の夕暮であった。
茶がかった[#「がかった」に傍点]渋い風景であった。
芭蕉《ばしょう》好み、そんな景色だ。
伊右衛門の前には釣棹《つりざお》が、三本が所下ろされてあった。
その一本がピクピクと揺れた。
「ああ出来た」
と直助が云った。
で、伊右衛門は上げてみ
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