ケに貧乏だったものさ」
「でも、殺さずとも可《よ》かったろうに」
「ナーニ、手にかけて殺したんじゃあねえ。変な具合で自殺したんだ。尤も自分で死ななかったら、屹度《きっと》俺は殺したろうよ」
「恨死《うらみじに》に死んだんだね」
「お説の通りだ、恨死に死んだ」
「で、只今はお梅さんと、仲|宜《よ》くおくらしでござんすかえ?」
直助は古風に冷《ひや》かすように訊いた。
「何さ、お梅も喜兵衛|奴《め》も、婚礼の晩に叩っ切って了《しま》った」
伊右衛門は斯《こ》う云うと苦笑した。
「お梅は何《ど》うでも可《よ》かったが、持参金だけは欲しかった。伊藤の家庭と来たひにゃあ、時々蔵から小判を出して、錆《さび》を落とさなけりゃあならねえ程、うんとこさ金があったんだからなあ」
「だが何《ど》うして殺したんで?」
「時の機勢《はずみ》という奴さ」伊右衛門はひどく冷淡に「お梅の顔がお岩に見え、喜兵衛の顔が小仏小平《こぼとけこへい》、其奴《そいつ》の顔に見えたのでな、ヒョイと刀を引っこ抜くと、コロコロと首が落ちたってものさ」
「ははあ、其奴ぁお岩さんの怨《うらみ》だ」
「世間でもそんなことを云っていたよ」
前へ
次へ
全12ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング