門《よつやさもん》の娘お岩《いわ》、その左門とお岩とを、お前さんは文字通り殺したんだからね」
「そうとも文字通り殺したよ。お岩を呉《く》れろと云った所、左門|奴《め》頑固に断わったからな。それで簡単に叩《たた》っ切ったのさ」
「でも何《ど》うしてお岩さん迄?」
「うん、増花《ますはな》が出来たからよ」
「伊藤喜兵衛《いとうきへえ》のお嬢さんが、惚れていたとは聞いていたが」
「お梅《うめ》と云って別嬪《べっぴん》だった」
「お岩さんより可《よ》かったんだね?」
「第一若くて初心《うぶ》だったよ。子を産みそうな女ではなかった。玩具《おもちゃ》のような女だったよ」
「へへえ、そこへ打ち込んだんだね!」
「何しろお岩は古女房、そこへ持って来て子を産みやあがった。どうもね、女は子を産んじゃあ不可《いけ》ねえ。ひどく窶《やつ》れてみっとも[#「みっとも」に傍点]なくなる。肋骨《あばらぼね》などがギロギロする。尤《もっと》も金持の家庭なら、一人ぐらいは可《い》いだろう。産後の肥立が成功すると、体の膏《あぶら》がすっかり脱けて、却って別嬪になるそうだからな。ところが不幸にもあの時分、俺等《おいら》はヤ
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