隠亡堀
国枝史郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)伊右衛門《いえもん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)直助|権兵衛《ごんべえ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「みっとも」に傍点]
−−
一
「伊右衛門《いえもん》さん、久しぶりで」
こう云ったのは直助《なおすけ》であった。
今の商売は鰻掻《うなぎかき》であった。
昔の商売は薬売であった。
一名直助|権兵衛《ごんべえ》とも呼ばれた。
「うん、暫く逢わなかったな」
こう云ったのは伊右衛門であった。
昔は塩谷家《えんやけ》の家来であった。
今は無禄の浪人であった。
「考えて見りゃあお前《めえ》さんは、私に執《と》っちゃあ敵《かたき》だね」
一向敵でも無さそうに、にやにや笑い乍《なが》ら直助は言った。
「洒落《しゃれ》かい、それとも無駄なのか」伊右衛門には興味も無さそうであった。「洒落にしちゃあ恐ろしい不味《まず》い。無駄にしちゃあ……いかにも無駄だ」
「でもね伊右衛門さん、そうじゃあ無いか。私の女房の姉というのは、四谷左
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