縹緻《きりょう》ね」
とお嬢様のお小夜様が、お柳という女中へささやかれたのを聞いて、わたしは厭な気がいたしましたっけ。それというのも日ごろから、そのお美しさと初々《ういうい》しさとに、感心もし敬ってもいる、お小夜様だったからでございます。お小夜様のお年は十九歳でございましたが、すこし小柄でございましたので、十七歳ぐらいにしか眺められず、小さい口、つまみ鼻、鮠《はや》の形をした艶のある眼、人形そっくりでございました。大工の棟梁とは申しましても、尾張様御用の持田家は、素晴らしい格式を持っていまして、津田助左衛門様、倉田新十郎様、などという、清洲越《きよすごえ》十九人衆の、大金持の御用達衆《ごようたししゅう》と、なんの遜色《そんしょく》もないのでありまして、その持田様のお娘御でございますことゆえ、召されておられるお召し物なども、豪勢なもので、髪飾りなどは銀や玳瑁《たいまい》でございました。
「ほんとに好い男振りでございますのね」
とお柳という女中も申しましたっけ。
「馬鹿め、何が好い男だ!」
とうとうわたしは腹立たしさのあまり、かなり烈しい声で、そう言ったものでございます。するとどうで
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