士である。
「来い!」
 と勇躍、旗二郎、建物の角から走り出た。
「悪漢!」
 と一声、胆を奪い、真っ先に進んで来た一人を、サーッと右の袈裟に掛けた。
 が、それは駄目であった。十分用心をしていたのだろう、旗二郎の太刀を横に払い、翻然斜めに飛びのいた。
「方々!」
「うむ」
「ご用心!」
 三人声をかけ合ったが、抜き身を構えると三方へ開き、旗二郎を中へ取り込めようとした。
「これはいけない」
 と旗二郎、ポンと飛び返ると闇の中――以前隠れていた建物の角へ、ピッタリ背中を食っつけたが、「さあて、これからどうしたものだ」
 突嗟の間に思案した。
 見れば三人の敵の勢、大事を取るのか早速にはかからず、且つは秘密を保とうとしてか、無駄な掛け声をかけようともせず、タラタラと三本の太刀を揃え、ジリジリ……ジリジリ……と寄せて来る。
 いずれも相当の手利きらしい。が、その中では真ん中にいる、体付きのきゃしゃ[#「きゃしゃ」に傍点]な一人の武士が、どうやら一番未熟らしい。そのくせどうやらその人物が、彼らの仲間での首領らしい。花垣と呼ばれた人物らしい。
「よし」
 と旗二郎うなずいた。「真ん中の奴を打ち
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