クルリと振り向き、抜き身を袖で蔽ったが、腰をかがめると木蔭づたい、母屋の方へ小走った。
築山裾まで来た時である。
「ご苦労でござった、結城氏」
こういう声が聞こえて来た。
と、すぐ別の声がした。
「我らこちらを守りましょう。願わくば貴殿、石橋を渡られ、向こうに立っている離れ座敷、それをお守りくださるよう」
とまた別の声がした。
「そちらに主人おりますのでな」
どこにいるのか解らない。どこかに隠れているのだろう。そうして悉皆《しっかい》を見たのだろう。
十
「ははあ、さっきの奴らだな」
結城旗二郎察したが、問答をしている時ではない、頼まれて人を切った以上、乗りかかった船だ、最後まで、手助けをしてやろうと決心した。
「承知」
と一声簡単にいったが、築山を巡ると泉水へ出、石橋を向こうへ渡り越した。
行く手に建物が立っている。廻廊で母屋とつながって[#「つながって」に傍点]いる。独立をした建物である。木立がその辺を暗めている。雨戸がピッシリ閉ざされてある。
そこまでやって来た旗二郎、グルリと周囲を見廻したが、建物のはずれの一角の、暗い所へ身をひそめた。
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