こべに相手にしてやられる[#「してやられる」に傍点]」
「だからわれわれを鞭撻し、十分にお働かせなさるがよろしい」ちょっと凄味を見せたのは、指の欠けている武士であった。
「というのはどういう意味なのかな?」
 ちゃアんと分っておりながら、知らないように志津馬がいう。
「いただきたいもので、前祝いを」
「酒はさっきから飲んでいるではないか」
 こういいながら花垣志津馬は飲み散らした杯盤を眺めやった。
 と、ハッハッという笑声が、三人の口から同時に出た。
「酒も黄金の色ではあるが、ちと、その、どうも水っぽくてな」
「チャリンチャリンと音のするやつを」
「なんだなんだ、金がほしいのか」
 今気がついたというように、花垣志津馬は苦笑したが、
「持ってけ持ってけ。……分けろ分けろ」
「これは莫大……」
「十両ずつかな」
「後へ二十両残りそうだ」
「うん、しめて五十両か」
 安浪人め、三人ながら、手を延ばすとあわててひっ[#「ひっ」に傍点]つかんだが、ちょうどこの頃一軒の屋敷の、一つの部屋で一人の武士が誰にともなく話しかけている。

        二

「みんなお前が悪いのだ。俺は怨む、お前を怨
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