ああ人品は立派だが、御家人らしいよ。安御家人らしい」
「ふうん」といったまま黙ってしまった。
門内の女も黙っている。で、森閑と静かである。ピシッ、ピシッと音がする。泉水で鯉が跳ねたのらしい。
「俺の噂をしているわい」ニヤリと笑った旗二郎、「立派な人品とは有難いが、安御家人とは正直すぎる」――で、なお様子をうかがった。
と、男の声がした。「どっちみち油断は出来ないの。うかうかしていてその御家人に、玉を取られては一大事だ。……よしよしすぐに手配りをしよう」
「それがいいよ」と女がいった。「それでは私は帰るとしよう」
そこで女は木立をくぐり、母屋の方へ帰ったが、間もなくポッツリと土塀の上へ、一つの人影が現われた。覆面をした武士である。とまたポッツリともう[#「もう」に傍点]一つ、同じく覆面姿の武士が土塀の上へ現われた。
隠れ窺っていた旗二郎、「ははあ切り込みの武士達だな。よしよし端から叩っ切ってやろう」
――で、ソロソロと身を起こし、片膝を立てると居合い腰、大刀の柄へ手を掛けたが、プッツリと切ったは鯉口である。上半身を前のめり[#「のめり」に傍点]に、肘をワングリと鈎に曲げ、左の足
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