。葉末殿のため、ご主人のため、こういったからには敵ではなく、味方であるとしか思われない……。ではなぜ切り込んで来たのであろう? ではなぜ葉末というあの娘を、かどわかそうとしたのだろう? 何が何んだか解らない。解っていることはただ一つだ、怪しい館だということだけだ。どうでもこの屋敷、どうでも怪しい」
旗二郎怒りを催して来た。翻弄されたと思ったからである。
「主人のためでなかろうと、娘のためでなかろうと、俺は俺のために叩っ切る。来やがれ! 誰でも! 叩っ切る!」
で、スルスルと足音を忍ばせ、先へ進むと木立があり、それを抜けた時行く手にあたり、取り廻した厳重の土塀が見え、ガッシリとした裏門が、その一所に立っていた。
「うむ、あいつが裏門だな」
小走ろうとした時、トン、トン、トン、と、その裏門を外の方から、忍びやかに叩く音がした。
と、一つの人影が、母屋の方から現われた。意外にも女の姿である。裏門の方へ小走って行く。で、旗二郎地へひれ[#「ひれ」に傍点]伏し、じっと様子をうかがったが、またも意外の光景を見た。
八
というのは他でもない、小走って来たその女と、門外に
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