らしい。燈明の火がともっているらしい。
 地面は苔でおおわれている。で、気味悪く足がすべる。
 一所に小滝が落ちている。それに反射して月光が、水銀のようにチラチラする。
 と、ほととぎすのなき声がした。
「まるで大名の下屋敷のようだ。その下屋敷の庭のようだ」
 呟きながら旗二郎、築山のうしろまで行った時である。
 築山の裾に岩組があり、それの蔭から黒々と、一個の人影が現われた。
「おや」
 と思った時、掛け声もなく、スーッと何物か突き出した。キラキラと光る! 槍の穂だ! 黒影、槍を突き出したのである。
「あぶない!」
 と思わず叫んだが、「何者!」と再度声を掛けた。とその時には旗二郎、槍のケラ首をひっ[#「ひっ」に傍点]掴んでいた。
 と、黒影、声をかけた。
「先刻はご苦労、まさしく平打ち、ピッシリ肩先へ頂戴してござる。……で、お礼じゃ、槍進上! ……そこで拙者はこれでご免! ただしもう[#「もう」に傍点]一人現われましょう」
 スポリとどこかへ消えてしまった。
 団々と揺れるものがある。雪のように真っ白い。白牡丹の叢があるのであった。黒い人影の消えた時、恐らく花を揺すったのであろう。
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