廻らない。いよいよ眼が冴え心が冴え、とても眠気など射《さ》そうともしない。夜がだんだん更けて行く。更けるに従って屋敷内が、いよいよ静けさを呈して来る。
 それにもかかわらず不思議なことには、訳のわからぬ不安の気が、旗二郎の心に感じられた。「よし」と突然どうしたのか、旗二郎は呟くと立ち上がった。取り上げたのは大小である。「どっちみち怪しい屋敷らしい。思い切って様子を探ってみよう。一室に籠もって酒を飲んで、事件の起こって来るやつを、待っているのは消極的だ。こっちからあべこべ[#「あべこべ」に傍点]に出かけて行き、屋敷の秘密を探ってやろう」
 で、部屋から出て行ったが、はたして結城旗二郎、どんな怪異にぶつかったろう?

        七

 いつか旗二郎裏庭へ出た。
 素晴らしく宏大な庭である。山の中へでもはいったようだ。
 木立がか[#「か」に傍点]黒く繁っている。築山が高く盛り上がっている。広い泉水がたたえられてある。いたる所に花木がある。泉水には石橋がかかっている。
 ずっと遙かの前方で、月光を刎ねているものがある。風にそよいでいる大竹藪だ。その奥に燈火がともっている。神の祠でもある
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