かな垂れ頬、ひきしまった頤、厚い耳たぶ[#「たぶ」に傍点]、長目の首、総体が華奢《きゃしゃ》で上品で、そうして何んとなく学者らしい。体格は中肉中|身長《ぜい》である。顔に負けない品位がある。着流しの黒紋付き、それで端然と坐っている様子は、安く踏んでも大旗本である。品位と貫禄と有福と、智恵と人情とを円満に備えた、立派な武士ということが出来る。
だが一つだけ不思議なのは、そのいうことやいう態度に、おちつき[#「おちつき」に傍点]のないことであった。どことなく何んとなくオドオドしている。何物をか恐れているようである。いっている言葉にも矛盾がある。そうしていわないでもよいようなことまで、いっているようなところがある。といってもそれが悪い心から、発しているものとは思われない。で、もちろん、加工的でもない。自然とそんなようになるのらしい。だからいよいよ変なのである。
何かに脅えているのらしい。何かに縋ろうとしているのらしい。助けられたがっているのらしい。――つまりそんなように見えるのであった。
「どうも不思議な人物だな。……変なところへ入り込んでしまった」
結城旗二郎は気味悪くなった。
「俺
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