身のように存ぜられますが。……あッ、さようで、それは幸い、やはりご独身でございましたかな。何から何までよい具合で。……それに大変武芸にも勝れ人品もよく骨柄もよく、お立派なものでございますよ。……ええとところで今夜でござるが、ひょっとか[#「ひょっとか」に傍点]すると当屋敷へ、襲って来る人間があるやも知れず、ええその際にはご武勇をな、ぜひともお揮い願いたいもので。……ええとそれからもう一つ、ひょっとかすると当屋敷に、ちょっと[#「ちょっと」に傍点]変わった事件が起こり、お驚かせするかも知れませぬが、決して決してご介意なく、安心してお泊まりくださるよう」
 三蔵琢磨というこの家の主人、こんな具合に話すのであった。
 その琢磨の風貌だが、まことに立派なものであった。
 艶々しい髪を総髪に結び、バラ毛一筋こぼしていない。広い額、秀でた眉、――それがノンビリと一文字である。軟らか味を持ち冴え返り、人情と智恵とを兼有したような、非常に美しい穏かな眼。鼻の高さ形のよさ、高尚という言葉さながらである。どこか女性的の小さな口。唇は刻薄に薄くもなく、さりとて卑しく厚くもない。で、やっぱり立派なのである。豊
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