女である。寝椅子の上に腹這っている。両肘で顎をささえている。乳のように白い肘である。ムッチリとして肉づきがよい。顔は妖婦! 妖婦《バンプ》型である。髪をグタグタに崩している。黒い焔を思わせる。その髪に包まれて顔がある。目ばかりの顔ではあるまいか? といったような形容詞をどうにもこの際用いなければ、到底形容出来ないような、そんな印象的な目をしていた。二重まぶたに相違ない。が、思うさま見開いているので、それがまるっきり[#「まるっきり」に傍点]一重まぶたに見える。目の中が黒く見えるのは、黒目が余りにも多いからだろう。白眼が縞をなしている。濃い睫毛《まつげ》の陰影が、そういう作用をしているのだろう。その目が一所を見詰めている。で黒目が二つながら、目頭の方へ寄っている。で、一種の斜視に見える。斜視には斜視としての美しさがある。いや斜視そのものは美しいものだ。で、その女――島子なのであるが――その島子の人工的斜視は、妖精的に美しい。また蠱惑《こわく》的といってもいい。また誘惑的といってもいい。いやいや明きらかに彼女の目は、露骨に誘惑をしているのであった。紅を塗られた唇は尋常よりもグッと小さい。
 島子は襲衣《したぎ》一枚である。一枚だけをひっかけている。真紅の色というものは、誘惑的ではあるけれど、あまりに刺戟があくどい[#「あくどい」に傍点]ため、教養ある人には好かれない。肉色こそはより[#「より」に傍点]一層、男の情慾をそそるものである。それを島子は着ているのである。裾と胴とに鱗型をつけた、肉色絹の襲衣なるものを! よい体格だ! 肥えている。腰のあたりがクリクリとくくれ[#「くくれ」に傍点]、臀部がワングリと盛り上がっている。二本の足が少し開かれ、襲衣に包まれているのだろう、臀部から踵までの足の形が、襲衣を透かして窺われる。襲衣が溝を作っている。ひらかれた足のひらき目である。襲衣の襟が寛《くつろ》いでいる。で胸もとが一杯に見える。肋骨などあるのだろうか? そんなようにも感じられるほど、脂肪づいた丸い厚い胸が、呼吸のために相違ない、ゆるやか[#「ゆるやか」に傍点]に顫え動いている。
「味のよい果物がここにあります」
 島子歌うようにいい出した。
「めしあがりませ、琢磨様!」
 頤を支えていた左の腕を、こういいながらダラリと落とし、寝台の上へ長々と延ばした。と、襲衣の襟が捲くれ
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