「アッハハハウフフフフアッハハハハ。ヒヒヒヒヒ」
音はあっても響きのないいかにも気味の悪い笑声で、聞いているうちに、十平太は身の毛のよだつような気持ちがした。
「まるでこれでは幽霊だ。それに何んのために白い布《きれ》を頸にあんなに巻いているのだろう」
口の中で呟いて、十平太は見詰めていた。
「ああそうだよ。これが地理書さ。……上陸すると俺はすぐに城代屋敷まで行ったものさ。かなり厳重な構えであったが、忍ぶことにかけては得意だからな。うまうま盗み出したというものさ」
「しかし頭領」と十平太は椅子に腰をかけながら、「あなたは町奉行手附きの者に捕らえられた筈ではありませんか」
「うん」
と紋太夫は頷《うなず》いたが、「いかにも俺は捕らえられ住吉の海辺で首を切られたよ。が、この通りここにいる。そうしてお前と話している。ハハハハ、これでいいではないか。ただし首へはさわるなよ。ひょっと[#「ひょっと」に傍点]落ちると困るからな」
書籍《ほん》を取り上げ頁《ページ》を翻《ひるがえ》し、じっと一所《ひとところ》を見詰めたが、ガラリ言葉の調子を変え紋太夫はこう云った。
「聞け十平太! よく聞くがい
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