きな巌窟《いわや》がござる。巌窟《いわや》の中に剣《つるぎ》がござる」
「ははあそれではその剣を持って参れと云われるのか」
「さよう」とオンコッコは頷《うなず》いた。
「いと容易《やす》いことじゃ。すぐに参ろう」
こう云うと紋太夫は社殿から下りて林の中へはいって行った。
彼はズンズン進んで行く。
「ははあこれだな」
と呟《つぶや》きながら、大岩の前に彳《たたず》んだのは、それから三時間も経った後で、永い永い南国の日も今は暮れて夜となっていた。
彼の眼前に大岩が――大岩というより岩山が、高さ数十丈広さ数町、峨々《がが》堂々《どうどう》として聳《そび》えていたが、正面に一つの口があってそこから内へはいれるらしい。
「内は暗いに相違あるまい。松火《たいまつ》を作る必要がある」
紋太夫はこう思って、枯れ枝を集めに取りかかった。やがて松火が出来上がる。燧石《いし》を打って火を作る。松火は焔々と燃え上がった。
で、紋太夫は元気よく、しかし充分用心して窟《いわや》の内《なか》へはいって行った。道が一筋通じている。その道をズンズン歩いて行く。
やがて一つの辻へ出た。道が二つに別れている
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