、見るに見かねてこの私が命乞いを致したのでございます。私は祭司でござります。神の御旨《みむね》はこの私が誰よりも一番存じております。神は助けよと申されました」
 祭司バタチカンはこう云いながらジョン少年を引き寄せようとした。
 酋長オンコッコは月形をした長い太刀を引き抜いたが、左の腕でジョン少年を捕らえ、自分の方へ引き寄せた。怯《おび》えて泣くジョン少年。バタチカンはひざまずいて何やらブツブツ云い出したのは神へお祈りでもするのであろう。
 オンコッコは力をこめてジョン少年の胸の辺を偃月刀《えんげつとう》で突き刺そうとした。とにわかに手が麻痺《しび》れた。
「お待ちなされい!」と沈着《おちつ》いた声。紋太夫が背後《うしろ》に立っている。オンコッコの腕は紋太夫の手の中にしっかり握られているのであった。
「女子供には罪はない。女子供は非戦闘員でござる。助けておやりなさるがよい」紋太夫は静かに云った。
「おお助けよとおっしゃるなら助けないものでもござらぬが、それには償いがいり申すぞ」オンコッコは憎さげに云う。
「拙者代わって償いましょう」
「この深い深い林の中を西へ西へと三里余り参ると一つの大
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