。
「おや君はどなたです?」その少年は審《いぶか》しそうに訊いた。その言葉は土人語である。
「道に迷った子供です」
「ああそうですか、それはお気の毒……」その少年は優しく云った。親切そうな少年である。
「君は土人ではありませんね?」ジョン少年はまず尋ねた。
「ええ僕らは日本人です。……君も土人ではありませんね?」
「そうです僕は英国人です」
「英国人? ああそうですか。で名前は何んと云うのです? 僕の名は大和日出夫」
「僕の名はジョン・ホーキン」
「英国というとどの辺です?」
「遠くの遠くの海のあなたです」
「そこから一人で来たのですか?」
「どうして一人で来られるものですか。お父さんや仲間の者と、海を越えて来たのですよ」
「その人達はどうしました?」
「土人と戦争をしています。……ところでここはどこなのです? 大陸ですか島ですか?」
「チブロン島の裏海岸です」
「オヤやっぱりチブロン島ですか」ジョン少年は吃驚《びっくり》したが、「日本というのはどんな国です?」
「日本は東洋の君子国ですよ。そうして人間は利口ですよ。尚武《しょうぶ》の気象に富んでいます」
「チブロン島から近いのですか?」
「いいえ非常に遠いのです」
「いつこの島へ来られたのです?」
「ちょうど、今から五年ほど以前《まえ》に」
「何んのために来られたのです?」
「隠された宝庫を探すためにね?」
「やはり君達もそうなんですか」ジョン少年は眼を円くしたが、「そうして宝は見付かりましたか?」
「もう一息というところでとうとう失敗したのですよ。……つまり聖典を盗まれたのでね」
「その聖典とはどんなものです?」
「漢文で書かれた本ですよ」
「漢文というと支那の文章ですね」
「ええそうです支那の文章です。……その聖典には、益《ため》になる話が数限りなく書いてあるのです。……大事な大事な本なのです」
「いったい誰が盗んだのです?」
「蛇使いの婆さんがね」
「その婆さんはどこにいます」
「地下の世界にいるのだそうです」
「そんな世界があるのですか?」
「ええあるということですよ」
「何故他人の本なんか盗んだのでしょう?」
「宝の在所《ありか》が書いてあったからです」
「隠された宝と婆さんとは何か関係でもあるのですか?」
「その婆さんが守り主なのです。その隠された宝のね。で、婆さんは本さえ盗んだら宝は安全だと思ったので
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