げ付けるがいい。まず最初に一つ投げる。それからもう一つ投げ付ける。そうしたらお前は助かるだろう。ではさようなら、健康《たっしゃ》で行くがいい」
 乞食はそのまま行ってしまった。
 ジョン少年は乞食の後をしばらくじっと[#「じっと」に傍点]見送っていたが、奇妙な黒い二つの玉を上衣《うわぎ》のポケットへ蔵《しま》い込むと、足に任せて歩き出した。すると遙かの行く手に当たって一軒の家が現われた。もうこの時は夕暮れでジョン少年は疲労《つか》れてもいたし酷《ひど》く腹も空いていたので、その家へ行って、宿も乞い食物も貰おうと決心した。
 邸の造作《つくり》も異様であったが、永く手入れをしないと見えて、門は傾むき屋根は崩れ凄まじいまでに荒れていた。――見たこともない家造りである。
「ご免! ご免!」
 と案内を乞うた。誰も答える者がない。ジョン少年は途方に暮れてぼんやり門口に佇《たたず》んだが、
「もし叱られたら謝まるばかりだ。構うものかはいってやれ」
 ――そこは英国の冒険少年、大胆に家の中へ入って行った。すると大きな部屋があり、一人の男が寝ていたが、ジョン少年の姿を見るとムクムクと体を起き上がらせた。そうしてジョンを睨み付けた。
「貴様は誰だ!」と大きな声で、突然その人は怒鳴ったものである。不思議なことにはその人は、土人の言葉は使うけれど、人種は土人ではなさそうである。
「怪しい者ではありません」ジョン少年は急いで云った。
「道に迷った子供です」
「いやいや貴様は泥棒だろう! また聖典を盗みに来たな!」不思議な男はまた怒鳴った。「貴様は蛇使いの一味だろう※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」
「そんな者ではありません。僕は英国の少年です。ジョン・ホーキンと云う子供です」
「嘘を云え悪者め! が、子供などは相手にしない。サッサとここを立ち去るがいい。そうして蛇使いの婆さんに云え、早く聖典を返せとな!」
「僕、蛇使いの婆さんなどに一度も逢ったことはありません」
「ああ睡い、俺は寝る」云ったかと思うと、その男は肘を曲げてゴロリと寝た。とすぐ鼾《いびき》が聞こえ出した。

        二十四

 ジョン少年は呆気《あっけ》に取られ、少しの間立って見守っていた。
 その時一人の少年がツカツカと部屋の中へはいって来た。年|恰好《かっこう》はジョンぐらいである。やはり土人ではなさそうである
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