水が銀色に光っている。沢山の子供達は手を繋《つな》ぎ合い輪を作って踊っている。そうして彼らは唄っている。
[#ここから2字下げ]
いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい、
夢の島、絵の島、お伽噺《とぎ》の島、
いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい、
[#ここで字下げ終わり]
ジョン少年はしばらくの間、漕ぐ手を止めて見惚《みと》れていた。
「皆な楽しそうに遊んでいるよ。僕も一緒に遊びたいな」
また歌声が聞こえて来る。
[#ここから2字下げ]
いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい、
花を摘んで差し上げましょう、
ここにはお乳が流れています、
甘い蜜もございます。
蜂はブンブン、蝶はヒラヒラ、
夢の島、絵の島、お伽噺《とぎ》の島、
いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい。
[#ここで字下げ終わり]
唄いながら子供達が踊っている。足が揃って上へあがる。手が揃って前へ出る。輪がグルグル渦を巻く。伴奏の役目は小鳥である。
「ああいいなあ」とジョン少年はその子供達が羨《うらや》ましくなった。
「上陸して一緒に遊ぼうかしら」
で、櫂《かい》へ力をこめ、小舟を島へ着けようとした。その時ハッと気が付いて行く手の空を眺めて見た。彼を導く大烏の姿が遙か彼方《むこう》の空の涯《はて》を今にも消えそうに翔けている。
「あ、しまった! 見失ってしまう!」
ジョン少年は吃驚《びっくり》したが、急いで舟をグルリと廻すと、島を見捨てて漕ぎ出した。尚後ろからは子供達の唄う楽しそうな歌声が聞こえて来る。それは誘惑の声である。しかしもはやジョン少年は心を乱そうとはしなかった。ただ一心に漕ぎ進んだ。
随分久しく漕いだので大分腕が疲労《つか》れて来た。その時行く手に陸が見えた。そうして烏はその陸を目がけ静かに静かに舞って行く。
ようやく岸へ漕ぎつけて見ると、烏の姿がどこにも見えない。
「あ、とうとう見失ってしまった」ひどく落胆したものの、またこうも思って見た。「つまり烏はこの陸地まで、僕を案内して来たのかもしれない。物語の中の宝物は、この陸のどこかにあるのかもしれない」
岸の木立ちへ藤蔓で舟をしっかり繋《つな》いでから、ジョン少年は上陸した。そうして奥の方へ歩いて行った。
二十三
間もなく一つの河へ来た。河岸に乞食《こじき》が転がっている。老い衰えた土人乞食で
前へ
次へ
全57ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング