か?」
「仲間にとってこの私は裏切り者でございます」
「何をして裏切った?」
「ジョンという子供を助けましたので」
 これを聞くと英人達はにわかに態度を改めた。
「ジョン少年を救ったのはさてはバタチカンお前であったか。乱軍の場合ではあったけれど、一人の土人がジョン少年を酋長オンコッコの毒刃から救い、小脇に抱えて逃げ出したのを遠目ながら確かに見た。そう聞いては粗末に出来ぬ。バタチカンの縛《いまし》めを解かなければならない。……さて、ところでジョン少年は今もお前の手もとにいような?」
「それがいないのでございます」
「ナニ、いない? どこへやった?」
「いえやったのではございません。消えてなくなったのでございます」
 それからバタチカンはこれまでの事を、貧しい会話と手真似とで出来るだけ詳しく物語った。その態度にも、言葉にも偽《いつわ》りらしいものは見えぬ。ゴルドン始め人達は信用せざるを得なかった。
「探さねばならぬ。探さねばならぬ」
 英人達は云うまでもなく日本方でもこう云って、捜索の人数を出すことにした。
 しかし、いくら探してもジョンの姿は見付からなかった。で、人達は絶望してまた一所へ集まった。
 ジョン少年はどこへ行ったのであろう?
 ゴルドン大佐はバタチカンを捉らえ、いろいろのことを訊いて見た。
「実は俺達は土人軍を追って、島を縦横に駈け廻ったところ、不意に一時にその土人達が姿を隠してしまったのだ。まるで地の中へ吸い込まれたようにな。……この島には地下へ通う抜け穴のようなものがあるのではないかな?」
「はい、抜け穴がございます」
「おおあるか! どこにあるな?」
「しかも三つございます」
「おお、そうか、教えてくれ」
「一つは社殿にございます」
「ナニ、社殿? 社殿のどこに?」
「はい床下にございます」
「それは少しも気が附かなかった」
「それからもう一つは林の奥の窟《いわや》の中にございます。しかしここからは、容易のことでは地下の世界へは行けません。迷路が作られてありますので」
「で、もう一つはどこにあるな?」
「はいこの島の裏海岸の荒野の中にございます」
「さてはそこから逃げ込んだものと見える」
「恐らくさようでございましょう」
「地下の世界とはどんな世界かな?」
「恐ろしい所でございます。神秘の世界でございます」

        二十二

 一本足の大烏
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