うとして焦心《あせ》るばかりで、権に対し、怒りも悲しみも怨みもしていない様子を見ると、やはり権が、自分の娘へ毒牙を加えなかったことを、認めるより仕方がなかった。
(好きな許婚《いいなずけ》の進一と、一月先になると、夫婦《いっしょ》になることになっている娘だ、それが泥棒に……そんなことをされようものなら、泣き喚き怨み憤るは愚か、突き詰めた心で、首を絞《くく》るぐらいのことはやるだろう。それだのにどうだお蘭は、泥棒の権を助けようとして夢中になっている。……とすると権は、やっぱり、ほんとうに、お蘭に手をつけなかったんだ!)[#「なかったんだ!)」は底本では「なかったんだ!」]
「偉えぞ権!」
と、佐五衛門は、嬉しさと、感謝と、神々しい奇蹟にでも遭遇《ぶつかっ》たような心持ちとで、思わず喚き出した。
「悪人じゃアねえとも、権! 悪人どころか、神様みたいな男だ!」
「竹法螺《たけぼら》を、お父さん、竹法螺を!」
「吹くか、いいとも、竹法螺吹いて、捕り方の奴らを!」
柱にかけてあった竹法螺を佐五衛門はひっ[#「ひっ」に傍点]外した。
「妾が吹く、妾が!」
と、お蘭は、父親から竹法螺をひったく
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