一枚絵の女
国枝史郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)家人《けにん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)その時|背後《うしろ》から

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あけすけ[#「あけすけ」に傍点]に
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        一

 ご家人《けにん》の貝塚三十郎が、また芝山内で悪事をした。
 一太刀で仕止めた死骸から、スルスルと胴巻をひっぱり出すと、中身を数えて苦笑いをし、
(思ったよりは少なかった)
 でも衣更《ころもがえ》の晴着ぐらいは、買ってやれるとそう思った。
 歌麿が描いた時もそうだった。衣裳は俺が買ってやったものだった。春信が描いた時もそうだった。栄之《えいし》の描いた時もそうだった。衣裳は俺が買ってやったものだった。
 豊国が今度描くという。
 どうしても俺が買ってやらなければ。
 新樹、つり忍《しのぶ》、羽蟻、菖蒲湯、そういった時令が俳句に詠み込まれる、立夏に近い頃だったので、杉の木立の間を洩れて、射し入る月光はわけてもすがすがしく地に敷いては霜のように見えた。
 その月光に半面を照らした、三
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