十郎の顔は鼻が高いので、その陰影がキッパリとつき、美男だのに変に畸形に見えた。
足もとの血溜まりに延びている死骸――手代風の男の死骸にも、月光は同じように射していた。まだビクビクと動いている足が、からくりで動く人形の足のように見えた。
「とうとうあのお方は憑かれてしまった。お気の毒に、お可哀そうに」
ずっと離れた石燈籠の裾に、襤褸《ぼろ》のように固まって始終を見ていた、新発意《しんぼち》の源空は呟いた。
(わしはあのお方がこれで三人も、人を殺したのを見たのだが、幾人これから殺すのだろう。……でもこれは人事ではない。わしが変心していなかったら、あのお方のようになっていただろう)
そんなように心で思った。
「これで流行《はやり》の白飛白《しろがすり》でも買って、それを着て豊国に描かせておやり」
こう云いながら若干《なにがし》かのお金を、おきたの前へ差し出して、自分の方が嬉しそうに、三十郎が笑ったのは、数日後のことであった。
隅田川に向いている裏座敷の障子が、一枚がところ開いていて、時々白帆の通るのが見えた。
額がすこし高かったが、それがかえって愛嬌になり、眼が眠たげに細かった
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