平等だという、真理《まこと》をわしは知ることが出来た。犬神だのとっつき[#「とっつき」に傍点]だのと、同じ日本の人間を、差別視するということの、不合理であるということも知った。わしはあの時あのおきたと、夫婦になればよかったのだ。わしがおきたと夫婦になっていたら、おきたはこんなあばずれ[#「あばずれ」に傍点]女に、決してなってはいなかっただろう! ……因果応報! 悪因悪果! わしは快く殺されよう!)
 そこで彼は大声で叫んだ。
「わたしは快く死にまする! さあさあお斬りくださいまし!」
 彼は立ったまま合掌し、眼をつむって静まっていた。
 でもいつまで待っていても、刀が彼の身へは触れなかった。
 そうして彼が眼をあけた時には、おきたと三十郎との姿は見えず、野面《のづら》の芒《すすき》を風がそよがし、月が照っているばかりであった。

 このことが絶好の教訓《いましめ》となって、源空は仏道に精進し、そのため次第に位置も進み、やがて一箇寺の住職となり、老年となるや高僧として、諸人に渇仰《かつごう》されるようになったが、そうなってからも疑問だったのは、
(あの時どうして三十郎のために、わしは命を
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