っそサラリとしていい」
こう云って褒めるものもあった。
――容色極メテ美麗ニシテ愛嬌アフルルバカリナリ。茶代ノ少キ客トイエドモ軽ク取リ扱ワズ、況ンヤ多ク恵ム者ニオイテヲヤ。――
と書かれたおきたであった。どの客にも愛想よく接した。今日はわけても褒められるので、心うれしく立ち振る舞った。
と店先を人々と混《まじ》って、網代の笠を冠った新発意《しんぼち》が、その笠をかたむけおきたを見ながら、足を早めて通って行った。
二
「あ」
とおきたは口の中で叫び、急いで店先きまで小走って行き、その新発意を見送った。
新発意は幾度となく振り返った。
(またあのお方が通って行く。……似ている。……いいえ酷似《そっくり》だ! ……あのお方に相違ない。……では妾はここにはいられぬ。……妾の身分があの人によって。……でもどうしてあのお方がご出家なんかしたのであろう?)
恋しい人……憎い人……秘密を知られた人……弥兵衛様……今は新発意――その人のことが彼女の心を、この日一日支配した。
「おきた、わしはもう駄目だ。わしはもう江戸にはいられぬ」
いつもの船宿へおきたを呼び出し、貝
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