二度鳴って、三度目に鳴る時は、三組残った優勝者の中最後に打ち勝った一人へ、月桂冠を与える時でござります。
使女A その時、音楽堂の頂上の窓へ赤い燈が点ぜられるのでござります。
使女B その時喜びの太鼓の音が、音楽堂のまん中で轟き渡るので、ござります。
使女A その時、近在から集って来た美しい少年等は声を揃えて、ほめ歌[#「ほめ歌」に傍点]を歌うのでござります。
使女B その時、月桂冠を得た名誉の音楽家は、少年等に取りかこまれ、音楽堂を立ち出でて、海へ出るのでござります。
使女A 海には紅い花で飾った舟が夜眼にも美しく浮かんでおります。
使女B 私共はその舟を婚儀の舟と呼びたいのでござります。なぜと申しますと、月桂冠を貰った音楽家は、その舟に打ち乗って、この館へ参られます。――そしてお嬢様と御婚礼を遊ばすのでござります。
使女A お嬢様と御婚礼を遊ばすのでござります。
使女B (海上の水鳥を眺め)あの水鳥が婚礼の舟の先ぶれのようではござりませぬか。
使女A (同じく海上の水鳥を眺め)私もそのように思っておりました。あのように列を造って泳いで来る様子が、まるで婚礼の舟が引き連いて来るようで
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