はとげられて
はかなく消えし赤き帆や
あわれ幻。
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(女子はまた、Fなる魔法使いの肩より離れて、高殿を見上げる)
女子 若様!
公子 (歌う)
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屍には白き藻草を着せかけん、
瞳の閉じし面には、
かぐろき髪の幾筋と
鈴蘭の花をのせて置く。
[#ここで字下げ終わり]
女子 若様、私は此処におりまする、若様!
公子 (歌う)
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死んで行くなる乙女子の
水の都の人魚へ……
[#ここで字下げ終わり]
女子 (高殿の下へ馳せ行き、物狂わしく)若様、若様、私は此処におりまする。
公子 (答えなく歌う)
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声もとどかぬ水底の
水の都の同胞《はらから》は、
[#ここで字下げ終わり]
女子 ああ未《ま》だあんな悲しい歌を歌っていらっしゃる。若様!
公子 (歌いつづけ)
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行方知れずの人魚を
浮藻の恋になぞらえて、
はかなきものと語り合う。
[#ここで字下げ終わり]
女子 (泣きつつ)若様、若様、若様よう。
公子 (ふっと歌を止めて、すかし見しが、直ちに復《ま》た歌う)
[#
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