間に、我等は罪悪を犯さにゃならぬ。(間)罪悪には燈火はいらぬ。(間)人のつけた燈火《ともし》の光は、人間の罪を照らすには、あまりに明るすぎるようだ。(突然)外に出よ月がある。月の光は青白く罪そのものの光のようだ。(女子を見て)女よ俺に従《つ》いて来い、Fなる魔法使いに従いて来い。(と竪琴を弾きながら、そろそろと正面の出口に向かう。女子は姿勢を崩さずに、その後に従う。Fなる魔法使いは一同を眺め、冷笑的の口調にて)愚者《おろかもの》の騎士、音楽家、領主の君のおひとよし[#「おひとよし」に傍点]、いつまでも明るい殿堂の中で、一人の女の不義する間、心地よい眠りをつづけていろ!(大きく笑い)領主の君の恋する女は、勇み進んで不義の砦へ進んで行く。白い肌が血に染まり、一度も吸われぬ唇は、千度《ちたび》百度《ももたび》けがされよう。(再び大笑)熟睡の間、楽器をかなで、節操の讃歌《ほめうた》でも歌っていろ! (大声)さあ早く一曲弾け! (一同各自の楽器を鳴らす。楽器の鳴りおる間に、Fなる魔法使いと女子とは、正面の口より退場す。燈火一時に消え、月光のみ青く窓よりさし入る。暗黒の中にて楽器は暫時鳴り渡る)
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