見て)さりとては、うつけ者の領主の君! (また並びて眠れる騎士、音楽家を眺め)眠れば死んだと同様なるお前達! 大理石の邸宅が焼け、金剛石の腕輪が燃え、氷山の頂きに裸体の女が立っていても、また東洋の草や木が、ホライズンの彼方に見えて、巫人《みこ》の一群が丸き輪をなし、聖歌を歌いながら躍っていても、眠ったお前達には何も見えまい。(突然)神秘の曲が夢に入る。早く各自の楽器を鳴らせ。(一同無意識に楽器を鳴らす、その音、場に充《み》つ)地獄へ送る送別の音が、いと高々に鳴り渡っても、眼醒むる人は一人も無い。(女子を見て)野を行く柩のかけ[#「かけ」に傍点]衣《ぎぬ》が、麻で織られた白布でも、大理石の温槽《ゆそう》の中へ、流れて落つる雪どけ水[#「雪どけ水」に傍点]でも、お前の今の心のように、清いものは世にあるまいが、それが亡びようとしているのだ。しかし小鳥よ眼を醒すな、眼を醒さずに音を聞け! (と短嬰ヘ調の音をかき鳴らす)聞け聞け今の一曲が「暗と血薔薇」の序の一節だ。湧き狂い立つ罪の喜びが、どのように暗の中で笑っているか、その一曲では未だ知れぬ、小鳥よ眠りながら再び聞け。(とまた弾ず)暗は罪悪を醗
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