名でも形容は出来ますまい。
白髪の音楽家 (群衆の最後の列にあり、紅顔なれど白髪、手に銀の竪琴を持つ。それをかき鳴らして進み出で)お嬢様の美しさは、この銀の竪琴の音のようでござります。(一同の騎士、音楽家驚きてその人を見る。その人は静々と場の中央に進む。一同はその音楽家を左右に取りかこむ。女子と老人と向かい合って立つ)
領主 嬢の美しさが銀の竪琴の音のようだとは、当意即妙の讃辞《ほめことば》。(と一同を見)方々もさように覚しめすか、如何でござる。(一同の騎士、音楽家は一斉に頷き笑い、互いに語り合うて各自の楽器を鳴らす。その音、場に充《み》つ。女子は少しく進みて老人を見る。知らぬ人なれば直《ただ》ちに視線をそらして左右の騎士音楽家を見廻し、情人はおらずやと尋ぬれど無し。失望して無音)
領主 (一同に向かい)嬢は機嫌が悪いと見えて、方々に何の挨拶もしない。嬢には時々このような時がある。これは嬢に悪い影がさしていて、時々その影が心をくらますからでござる。
白髪の音楽家 僕《やつがれ》がお嬢様のお機嫌を直してお見せ申しましょう。
領主 いやいやそれは、無駄のことと思われるが。
白髪の音楽家 僕
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