かと思われてなりませぬ。(公子忙しく入口に行き扉を開く、廊下より薔薇色の光線さし入る)
公子 紅い光ばかりが彳んでおりました。(と女子の傍へ来る)
女子 (室中を見廻し)、何故今夜に限ってこの室には一つの燈火も無いのでござりましょう、罪を犯す人は光を恐れると申しますが、私共二人は罪を犯すものではありませんのに。
公子 いえいえ、貴女の為ならば、私はどんな罪でも犯します……人を殺すことさえも。
女子 そのような恐《こ》わらしいことを申すものではござりませぬ。人を殺すのは、自分を殺すと同じではござりませぬか……。
(暫く無音にて両人顔を見合わす。突然、公子は女子の手を取る、女子はそれをこばまんとして能《あた》わず。公子は取りし女子の手を唇にあてんとす。奥より不意に、笑声起こる。女子取られし手を振りはなし)
女子 あれ笑い声が聞こえます。
公子 我等二人を笑ったのではありますまいに。
女子 いえいえ、それを案じたのではござりませぬ。あの笑い声の中に。(と恍惚となり笑声せし方に二三歩進む)
公子 (女子を支え)あの笑い声の中に……。
女子 はい、あの人[#「あの人」に傍点]の笑い声が混ざってい
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