に靡《なび》く柳の枝がその実、下の川水に姿をうつしているようなものでござります。私は風の役目と申すもの、川水は誰でござるやら、おうらやましいことでござります。
女子 そういうお言葉を聞く度に、私の心はかき乱されます。どうかもう、おっしゃらずにいて下さりませ。
公子 それは貴女の申すお言葉で、私の申し上げる言葉は別にござります。
女子 そのお言葉を、聞きたいことは山々でござりますが、聞いては却って後の嘆き、悲しい涙となりますれば、おっしゃらずにいて下さいまし。
公子 どうしたわけでござります。聞きたいことは山々なれど、聞いては後の嘆き、悲しい涙になるとは、どうしたわけでござります。(間)いやいや、またさように程の宜いことをおっしゃって、私の言葉をおはずしなさるのでござりましょう、私はよく存じておりまする。
女子 ほんにそうかも知れませぬ。(間)何彼《なにか》と申しましても、私は一つの願いに捉われている身でござりますれば、その願いの届くまでは、何んと申しても貴郎様の御親切にお答え申すことは出来ないのでござります。
公子 一つの願いとはどんな願いでござります。それを私に、お話し下さるわけには
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