トルコ》石を捧げて歩む少女の一群、緑玉髄を冠に着けたる年若き騎士の一団。司祭の頭には黄金の冠あり。……御厨の前の幕をかかぐる時、神体は見えざれども数千人の人々は声を揃えてサンタマリヤを唱う。その唱命は海の彼方の異国の涯《はて》にまで響きます。――この美しい南国の人々の心はどのように華やかでござりましょう、その人々の語り合う恋は、どのように秘密の烈しさを有していることでしょう。この脚本は、その秘密の烈しい恋を基として、演じられるのでござります。私はこれからこの脚本の諸々の色と匂い、光と陰、無音と音楽とをお話し致しましょう。
この脚本は夕暮より始まり、次の日の夜半に終ります。夜はこの脚本の舞台であります。この脚本には短ホ調の音楽と、短嬰ヘ調の音楽とが入ります。尚その他いろいろの楽器、例えば死せる人を弔う鐘、遂げられざる恋の憂いを洩らす憐のバイオリン、悪魔の誘惑を意味する銀の竪琴、騎士の吹く角の笛、楯につけたる鉄と真鍮《しんちゅう》の喇叭《らっぱ》、そして波も松風も嘶《いなな》く駒も、白き柩と共に歌う小供等も、楽器と云えば云えましょう。――これらの楽器がはいります。この脚本には「死に行く人
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