ガラスに伝い
老いたる木の葉は散っている。
君代さん
十八の君代さん
鼈甲《べっこう》のさし櫛は
若いあなたには老《ふ》けすぎた。
(別れし夕の私の印象。)
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死に行く人魚
時代 騎士の盛《さかん》なりし頃
場所 レモンの花の咲く南の国
人物 序を語る人
公子
女子
領主
従者
Fなる魔法使い
騎士、音楽家、使女、童、(多数)
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序を語る人
旧教僧侶の着る如き長き黒衣を肩より垂れ、胸に紅き薔薇花をさす。青白き少年の仮面を冠る。
独白――
レモンの花の咲く南方の暖国はここであります。黄昏は薔薇色の光を長く西の空に保ち、海には濃き藍の面を鴎が群れ飛び、鴎を驚かして滑り行く帆船は遙かの沖をめがけます。日は音なく昇り、音なく沈み、星と露とは常に白く冷やかにちょうど蛋白石のように輝きます。湖水の岸には橄欖《かんらん》の林あり、瑠璃鳥はその枝に囀《さえず》る。林の奥に森あり、香り強き樟脳は群れて繁り、繁みの陰には国の人々珍しき祭を執り行う。ああその祭たるや筆にも言葉には尽くせません。螺鈿《らでん》の箱に入れた土耳古《
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