お顔をすれば、私はほんとに悲しくって。
女子 (心を取り直し)いいえ、何も姉様は心配してはおりませんよ。……だがね、お前さんが、節だけ知っていて、文句を知らぬと云ったから……。
少年 ほんとですもの、私ほんとに節だけは知っているけれど……。
女子 ええ、ええ、そうでしょう。それはいいけれど。(と考え)恰度《ちょうど》、思うことは出来るけれど、知ることが出来ぬと同じようだ。朧《おぼ》ろ気《げ》に感ずることは出来るけれど、ほんとに見ることが出来ぬと同じようだ……。
少年 お姉様は何を云っているの。私には解らないのよ。
女子 いいんですよ。……ああ、けれどもね。
少年 ええ、ええ、お姉様!
女子 お前さんが、その歌の文句を知ることが出来る時は。……お前さんは自分の運命を知る時ですよ。
少年 ……私の運命。……それは何?
女子 此処へ来た運命をね。
少年 (笑い)お姉様、お姉様。私は此処へ何故来たか知っていてよ。ええ、ええ、よーっく知っていてよ。
女子 (驚き)まあ(とヨハナーンの顔を熟視し)知っているの?
少年 そんなこと何んでもないわ! 私はね、此処へ大事の大事のお姉様を尋ねて来たんですも
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