沈んで海底の、人魚の洞へくぐり行く。海底には人魚の母が、桜貝と藻の花を、据え物として待っている。公子の来るのを待っている。(突然)俺は云う! 公子は俺が殺したのだ!
女子 誰れが若様を殺したの?
Fなる魔法使い (明瞭に)公子は俺が殺したのだ!
女子 誰れが殺したの?
Fなる魔法使い Fなる魔法使いが殺したのだ!
女子 その魔法使いは何処にいて?
Fなる魔法使い お前の体を抱いている。
女子 ええ。ええ。(とFなる魔法使いより離れて、Fなる魔法使いを睨《にら》む)悪魔! 悪魔!
Fなる魔法使い (冷然と)女!
女子 悪魔! 悪魔! 若様を殺したお前は悪魔!
Fなる魔法使い (銀の竪琴を見せ)女よ! これを見ろ!
女子 銀の竪琴!
Fなる魔法使い (紫の袍を示し)女よこれを見ろ!
女子 紫の袍!
Fなる魔法使い (桂の冠を指し示し)紫の袍を着て、銀の竪琴を持ち、桂の冠をかむった俺は、お前を奪う唯一人の男だ!
女子 (声を震わせ、しかもなつかしげに)Fなる魔法使い!
Fなる魔法使い (笑い)北の浜辺で紅の薔薇の花を、お前にくれたFなる魔法使いは俺だ! さあまた北の浜辺へ行こう、罪の深い歓楽
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