て常時《しじゅう》疑っている。(窓を離れる。――と従者と顔を見合わせる)まだいたのか。
従者 はい、お殿様のお心を伺わぬうちは参りませぬ。
領主 (不審そうに)俺の心の何を伺うと云うのか。
従者 お隠し遊ばしても、チャンと存じておりまする。ハイ、チャンと存じておりまする。あなた様がこれんばかりの時から今日が日まで、一日も離れずお付き申し上げた私でござりますもの、お殿様のお心の中は、私自身の心の中よりも、ずんと詳しく存じぬいておりまする。ハイ。
領主 それがどうしたと云うのか。
従者 お隠し遊ばしても駄目でござります。
領主 (いらいらとして)くどい奴だな、俺は何も隠してはいないじゃないか。それともお前には隠しているように見えると云うのか。
従者 ハイ、その通りでござります。お殿様は一から十まで近頃はお隠しなされておりまする。
領主 何も別に隠している覚えはないが、それでも、かくしているように見えると云うなら為方《しかた》がない。そう見られるばかりだ。(と復《ま》た窓の方へ向かんとするを引き止め)
従者 (眤《じ》っと主人の顔を眺め)お顔もおやつれ遊ばしました。頬も額も青玉のように青褪め
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