り、しかして国民的政治を建つるの必要に迫られたり。国民的精神はここに至りてふたたび活動し、宗教の異同はもちろん、政論の異同にかかわらず、国籍を同じくするものがともに団結を固くして一致するの至当を認む、吾輩はこれを国民的精神の第二変遷とす。
その軍事的変遷
革命の騒乱すでに鎮《しずま》りたり。希世の英雄ナポレオン第一世は欧州全土を席巻したり。南地中海岸より北スカンジナーヴに至るまで大小の諸国は仏国の旗色を見て降を請い、万乗の王公は仏国武官の監督を受けてわずかにその位を保ちその政を執ることを得たり。ここにおいて欧州人の国民的精神は第三回の挫折をなし、ほとんど「国民」と称する団体を「地方」と言える無形人のごとくに感知するに至れり。法律制度より言語礼習に至るまで人々みな仏国の風に倣い、偸安姑息《とうあんこそく》の貴族輩に至りては争いてナポレオン帝に臣事せんことを望む。欧州の国民的精神はすでに二回の挫折を経たりといえども、いまだこの回のごとくにはなはだしきことはあらざりき。この回の挫折はほとんど社会の根柢にまで動揺を来たし、当時欧州諸邦が仏国勢力を感受したるさまはなお日本がさきに欧州勢力
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