命はもと毫も国民的感情に関係なく、その鋒もっぱら旧慣の破壊に向かい、封建論を唱うる者を死刑に処したるがごときの点より見れば、むしろ国民的感情に反対するの観ありき。しかれども国民的政治は国民統一をもってその一条件となす。封建遺制の錯雑を一掃して、かの宣言書にいわゆる単一不分の共和国を立つるは、日本の維新改革に近似して内部における国民的精神の発達と言うべし。すでにして仏人の国民精神すなわち愛国心はその適度を越えてほとんど非国民精神を呼び起こしたり。宣言の一条たる四海兄弟の原則は端なく国民といえる藩籬《はんり》を忘れしめ、共和国の兵は国の異同を問わずただ暴君に向かうべしと大叫するに至りたり。ここにおいて欧州諸国はさきにローマ教皇の威力に脅かされたるごとく、その第二として仏国革命の威力に脅かされ、ふたたび国民的感情の挫折に遭遇せり。しかしてこの恐るべき威力に対してはまた反動を来たすこと自然なりと言うべし。欧州人はすでに革命の思想に流圧せられたり、しかれどもその自由を保ちその幸福を全うせんには彼らいたずらに革命党の力を借りて一時に快を取るの不得策を感知せり、彼らは国民的精神をもって国民の統一を謀
前へ
次へ
全104ページ中91ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
陸 羯南 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング