にひとりその君に私するものならんや、また自らその性命を愛し自らその幸福を望めばなり。
[#ここで字下げ終わり]
これによりてこれを見れば自称保守論派の論旨は泰西学者の社会契約の論に近似し、ほとんどかの自由論派または改進論派の上に凌駕するの進歩主義なりと言うべし。
彼また主義の章において以為らく、「諸法己によりてもって生ず、ゆえに自由と謂い、諸法己によりて存す、ゆえに自主と謂う、自由なるものは身心の主にして彼我の性法なり、自由なるものは世間の義にして自他の常情なり」云々と。これ人民の自治を説きもって立法の一人に私定すべからざるゆえんを言うなり。しかしてこの政論派は立憲政体の至当を認め自由制度の至理を認め毫も旧時の慣例に固着するところあらず、しからば自ら保守と称すといえどもその実はむしろ激烈なる進歩主義と言わざるべからず。しかれどもその自由自主の理を推してもって痛くかの欧化主義に反対して自ら保守論派と称し、つねに儒仏の道を唱えて妄《みだり》に泰西の学説を口にせざるがゆえに、俗人は誤りてこれを保守論派と名づけたるに似たり。名実の相合せざるや誠にかくのごときものあり。世に一家の見識なくわず
前へ
次へ
全104ページ中86ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
陸 羯南 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング