実を観察するときは、甲種の論派に入るもの豈に必ずしも勤王愛国の士のみならんや、あるいはふたたび元亀天正の機会を造り、大は覇業を企て小は封侯を思うものなきにあらず。乙論派を代表する者といえどもまた然り、世界の大勢に通じ、日本の前途を考え、もって世論の激流に逆らうものは傑人たるを疑うべからず、しかれども、皇武合体を唱うる者あるいは改革に反対する守旧の思想に出でたるあらん、開港貿易を説く者あるいは戦争を厭忌する偸安《とうあん》の思想に出でたるあらん。吾輩はこの点において古今政界の常態を知る、その心情を察せずしていたずらにその言論を取り、もって政界の論派を別つはすこぶる迂に似たり、しかりといえども当時に若干の同意者を得て、世道人心に感化を及ぼしたる説は、その原因のいかんを問わず、吾輩はこれを一の論派として算列せざるを得ず、けだしまた人をもって言を廃せざるの志なり。
政治思想を言論に現わしてもって人心を感化するものは政論派の事なり、政治思想を行為に現わしてもって世道を経綸するは政党派の事なり。日本は今日まで政論派ありといえどもいまだ真の政党派はあらず、その名づけて政党と称するはみな仮称なり。吾
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