ところとならざらんや。吾輩はあえて議員諸氏に向かいてこの編を草するにあらず、世の良民にして選挙権を有し読書講究の暇なき者のためいささか参考の資に供せんと欲するのみ。その選出議員が実地の問題に遭いて生平の持説に背くことなきか、選挙人たる者、沿革変遷の上より今日世に存する政論の種類を考え、もって選出議員の言動と比較せよ。
吾輩は昨年のはじめ旧『東京電報』紙上において「日本近世の憲法」を草し、もっていささか維新以来政府の立法的変遷を略叙せり、今や議会まさに開け民間人士の実地に運動せんとするに際し、この編を草してもって民間の政論的変遷を略叙す、また時機に応じて前説の不足を補わんと欲するの意なり。
天下もとより同名にして異質なるものあり、その原因を殊にしてしかしてその結果を同じくするものまた少なしと言うべからず。昔討幕攘夷の論盛んに起こるや、全国の志士群起してこれに応ず、これに反対して皇武合体を唱え開港貿易を説く者、少数といえどもなお諸方に割拠してもって一の論派たることを得たり。当時この二論派は実に日本の政界を支配したるものにして、百世の下、史乗にその跡を留む。しかれども今日より仔細にその事
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