政府の干渉を排斥し、猶予なく平等を唱えて衆民の思想を喚起せり。彼その説に以為《おもえ》らく、
[#ここから1字下げ]
人は本来自由なり、人によりて治めらるるを甘んぜずして自ら治むるを勉むべし、自ら治むるの方法は代議政体に如《し》くはなし、人は本来平等なり、貧富智愚によりて権利に差違あるべからず、何人も国の政事には参与するの天権あり、これを実行するは代議政体に如くなし、
[#ここで字下げ終わり]
と。この説やもって旧時の思想を攪破するに足る、しかれども旧時の思想を誘掖《ゆうえき》するにはいまだ充分なりというべからず。何となればこの論派はほとんど史蹟および現実を離れて単に理想上にその根拠を有すればなり。彼ただちに自由を主張す、しかして日本人は史蹟において古来専制の政に慣れいまだ自治の事を聞見せしことなく、かつまた事実においてその能力を自信するあらず、彼ただちに平等を主張す、しかして日本人は史蹟において永く貴賤階級の風習に染みかつ事実においても賢不肖の差はなはだしきを知る。史蹟および現実においてはすでにかくのごとし。これ当時世人のすこぶるこの論派に疑惑するゆえんにして、しかしてこの論派の起
前へ
次へ
全104ページ中50ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
陸 羯南 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング