自由主義に潤飾せられたるものなり、吾輩はこの論派のわが人民の政治思想に大功績ありしを知る、ただその説の時弊に切にして痛快なるに因り、あるいは青年子弟の速了するところとなり種々の誤謬を世間に播布せられ、その言の旧慣に反して新奇なるにより、老実なる父老あるいはこれを驚聞して国体に傷害ある邪説と目するに至る。けだし俗言は耳に入りやすく高談は世に容れられがたし、利害を棄て毀誉を排しもって真理を明らかにせんと欲するものは豈に尋常の熱心ならんや、吾輩は当時の自由論派の世に待遇せられたるを回想して深く感ずるところあり。
 およそ士君子の正理を説きて世道人心を感化せんとするや、その説の時に薄遇せらるるを憂えず、しかしてその理の世に誤解せらるるを憂う、当時は政府の方針すでに立憲政体を建つるに決し、明らかに聖詔をもってこれを人民に知らしめ、人民たるものすでにようやく民権の何物たるを略知したるの時代なり。この時に当たりて自由論派は何故に共和主義または破壊主義と目せられしや。思うにまた世の誤解多きに坐するのみ。この誤解たるや、あるいはその末流の徒、真にいまだ先覚者の説を翫味《がんみ》せずしてこれを誤解|敷衍《
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