て算え来たれるゆえんなりとす。
 氷にあらずしてなお冷やかなるものあり、火にあらずしてなお熱なるものあり、今火ならざるをもって熱にあらず、氷にあらざるをもって冷にあらずと言う、これ粗浅の見たるを免れず、吾輩は最初においてこの事を一言せしはこれがためなり。血をもって民権を買うべしとの論派と、民権の中に幾分か叛逆の精神ありとの論派と、その間の距離|幾許《いくばく》ぞや。しかれども立憲政体を立てて民権を拡充すとの点においてはいずれも同一なり。民権を唱道するにおいては同一なれども、かの普通選挙一局議院を主張したる論派と、英国風の制限選挙二局議院を主張したる論派とははなはだ径庭あり。吾輩が当時の論派を一括して民権論派となし、むしろこの時代を称して民権論の時代となすはこれがためのみ、しかしてこの時代は西南戦争によりてとみに一変したるを見る。

    第三期の政論

     第一 国会期成同盟

 兵馬の争いは言論の争いを停止するの力あり、鹿児島私学校党の一揆は、ただに当時の政府を驚駭せしめたるのみならず、世の言論をもって政府に反対する諸人をも驚かし、一時文墨の業を中止して投筆の志を興さしめたり
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